インタビュー
現場の職員からの災害情報を「無線」と「地図」で可視化/多賀城市とミライエ・デジタスが共同開発
2023.10.20
災害発生時の初動で肝心なのが、被害状況の全体像の把握だ。地方自治体の災害対策本部に各地から断片的に集まる情報から、いかに速やかに被害の全容を把握するかーー。宮城県多賀城市はこの難題を、「無線機」と「地図」を使って解決しようとしている。多賀城市は2社のIT企業と協働し、職員が各地から無線機で送信した災害情報を、写真付きで地図上にマッピングできるシステムを開発。実用化に向け、現場の職員とともに実証実験を重ねている。
災害発生時に情報を集めるしくみ「IP無線機」で構築
東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた沿岸部の多賀城市では、災害時の教訓を生かし、様々な形で災害情報を収集・発信する方法を模索してきた。情報発信の面では、SNSや防災アプリでいち早く市民に情報を伝達するしくみを構築。一方で、情報の「収集」の面では未だ解決すべき課題を抱えていたという。多賀城市総務部危機管理課の副主幹・加藤雄一さんは「災害時に職員や市民の方からどう現場の情報を収集するか、そして、それを可視化しながらどう対策をしていくかという点で課題を感じていました」と語る。
そこで多賀城市が2022年度(令和4年度)から導入したのが、仙台市の株式会社デジタスが販売するIP無線機だ。アメリカの消防や警察、米軍も使用しているAndroid搭載の無線機で、アプリ開発で機能を拡張できることが特徴。スマートフォンのような機能を持つ無線機を用いることで、市の職員が音声だけでなく画像や動画で現場の状況を送ることができるようになった。デジタスのソリューション事業部部長・佐藤雅大さんはその特徴をこう説明する。「音声通信だけでなく、画像の送信やライブの映像配信までできるところが大きなポイントです。例えば職員が避難所や被災した現場から映像配信すれば、役所の危機管理課の皆様と即座にリアルタイムで状況を共有できます」
そこで多賀城市が2022年度(令和4年度)から導入したのが、仙台市の株式会社デジタスが販売するIP無線機だ。アメリカの消防や警察、米軍も使用しているAndroid搭載の無線機で、アプリ開発で機能を拡張できることが特徴。スマートフォンのような機能を持つ無線機を用いることで、市の職員が音声だけでなく画像や動画で現場の状況を送ることができるようになった。デジタスのソリューション事業部部長・佐藤雅大さんはその特徴をこう説明する。「音声通信だけでなく、画像の送信やライブの映像配信までできるところが大きなポイントです。例えば職員が避難所や被災した現場から映像配信すれば、役所の危機管理課の皆様と即座にリアルタイムで状況を共有できます」
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IP無線機導入時の様子
株式会社デジタスの佐藤雅大氏(左)と、多賀城市の加藤雄一氏(右)
無線機の導入で現地から情報を送る手段は整った一方、集まった情報を災害対策本部でどのように可視化して全体像を把握するかには課題が残った。加藤さんは「例えば川が氾濫している。雨の時にマンホールから水が噴き出している。道路が冠水しているーー。そういった情報を画像や動画で収集するので、それを地図で一覧化して表示したいという思いがずっとありました。また、収集した情報が既に対応済みなのか、これから対応しなければいけないものなのか。優先度は高いのか後でもいいのかなど、無線機を導入するだけでは解決できない課題がありました」と話す。
そこで多賀城市は、仙台市の「仙台BOSAI-TECH Future Awards 2022」でこの課題を提起し、解決策を広く求めることに。伴走してくれる民間企業を募集したところ、ソフトウェア開発を得意とする東京都の株式会社ミライエが提案した企画が採択されることになった。こうして多賀城市の防災上の課題に、災害に強い無線機というハード面を担うデジタス、情報をわかりやすく可視化するソフト開発を担うミライエが協働し、自治体に寄り添った独自の防災ソリューション開発がスタートした。
そこで多賀城市は、仙台市の「仙台BOSAI-TECH Future Awards 2022」でこの課題を提起し、解決策を広く求めることに。伴走してくれる民間企業を募集したところ、ソフトウェア開発を得意とする東京都の株式会社ミライエが提案した企画が採択されることになった。こうして多賀城市の防災上の課題に、災害に強い無線機というハード面を担うデジタス、情報をわかりやすく可視化するソフト開発を担うミライエが協働し、自治体に寄り添った独自の防災ソリューション開発がスタートした。
現場の声を反映し、サービス改善を重ねた実証実験
ミライエは無線機から送られた災害情報を地図上で一覧化できるようにするため、まず無線機から写真・動画を位置情報付きで簡単に投稿できるWebの投稿システムを開発した。災害対策本部側のパソコンからは情報が地図上にマッピングされた状態で表示でき、地図上のピンをクリックすることで写真や詳細情報が確認できる。地図には避難所の場所やハザードマップの津波による浸水想定エリアも重ね合わせ、エリアの避難場所や危険度を一目で判断できるような設計にした。
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無線機から送られた災害情報を地図上で一覧化
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株式会社ミライエ 小幡進氏
2023年2月には、災害時の実際の運用を目指した最初の実証実験が始まった。市の職員約10人が参加して「現地班」と「本部班」に分かれ、現地班が無線機で情報を送り、本部班が情報を確認するという流れだ。しかし、初めから全てがうまくいったわけではない。ミライエ代表取締役社長の小幡進さんはこう振り返る。「情報が送られるのにタイムラグがあり、無線機側で送った情報が本部側ではまだ届かずコミュニケーションがうまく成立しない、というアクシデントがありました。それで、実証実験にどんよりした雰囲気が漂ってしまい......」
そこで実験後に職員からのフィードバックをすぐに反映し、複数のアプリを行き来して操作することが必要だったWebの投稿フォームを「LINE」からの報告システムに変えることで、より簡単で迅速な操作と情報伝達を可能にした。改善されたシステムでは、多賀城市の職員用のLINEグループから「新規情報報告」をタップし、そこから現場の画像や動画を共有できる。報告画面では位置情報を追加できるだけでなく、「未対応」「対応中」「対応済」などの状況が選択でき、色分けすることで情報の緊急性についても地図上で一目でわかる仕組みになっている。
そして臨んだ、同年6月の2回目の実証実験。加藤さんは市職員の反応の変化をこう語る。「最初の実証実験では難しいという意見が多かったのですが、2回目では簡単だったという意見や、LINEという使い慣れたツールなので迅速に報告できる、といった前向きな意見がたくさんありました。その上で、より使いやすい形にアップデートを望む意見も出てきました。例えば一度報告した写真の『経過状況』も確認できたらもっといいよねとか、情報の新旧が判断できるといいよねとか。実証実験を重ねることによって、色々な職員からの声を拾えますし、同時に職員の訓練にもなるのですごくよかったなと思っています」
地図上で情報が一覧化されることは、災害対策本部だけでなく「現地職員」にも大きな利点をもたらすと、加藤さんは話す。「これまでは本部は現場から情報を収集する一方で、現場の職員には情報が入らず、他の地域の情報がわからないという課題がありました。このシステムを使うことで地域全体のマップが現場にいる職員も一緒に見られるので、本部と同じ情報を共有できる。その情報は現場でとても必要とされているものなので、大きなメリットの一つだと思います」
ミライエはその後も現場の声を反映しながら、実用化に向けてシステムのアップデートを重ねている。
そこで実験後に職員からのフィードバックをすぐに反映し、複数のアプリを行き来して操作することが必要だったWebの投稿フォームを「LINE」からの報告システムに変えることで、より簡単で迅速な操作と情報伝達を可能にした。改善されたシステムでは、多賀城市の職員用のLINEグループから「新規情報報告」をタップし、そこから現場の画像や動画を共有できる。報告画面では位置情報を追加できるだけでなく、「未対応」「対応中」「対応済」などの状況が選択でき、色分けすることで情報の緊急性についても地図上で一目でわかる仕組みになっている。
そして臨んだ、同年6月の2回目の実証実験。加藤さんは市職員の反応の変化をこう語る。「最初の実証実験では難しいという意見が多かったのですが、2回目では簡単だったという意見や、LINEという使い慣れたツールなので迅速に報告できる、といった前向きな意見がたくさんありました。その上で、より使いやすい形にアップデートを望む意見も出てきました。例えば一度報告した写真の『経過状況』も確認できたらもっといいよねとか、情報の新旧が判断できるといいよねとか。実証実験を重ねることによって、色々な職員からの声を拾えますし、同時に職員の訓練にもなるのですごくよかったなと思っています」
地図上で情報が一覧化されることは、災害対策本部だけでなく「現地職員」にも大きな利点をもたらすと、加藤さんは話す。「これまでは本部は現場から情報を収集する一方で、現場の職員には情報が入らず、他の地域の情報がわからないという課題がありました。このシステムを使うことで地域全体のマップが現場にいる職員も一緒に見られるので、本部と同じ情報を共有できる。その情報は現場でとても必要とされているものなので、大きなメリットの一つだと思います」
ミライエはその後も現場の声を反映しながら、実用化に向けてシステムのアップデートを重ねている。
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実証実験の様子
激甚化する災害に「テクノロジー」で立ち向かう
「無線」に「地図」を掛け合わせた、災害情報の可視化のしくみ。デジタスの佐藤さんは「無線の良さは災害時にも繋がりやすく、即座に連絡ができるところ」としながら、その機能を時代に合わせてアップデートしていく必要性を訴える。「テクノロジーの進化に伴い、無線で映像や写真も共有できるようにすることで、防災のしくみのクオリティーを根本から変えていく。そんな段階に、無線業界も入ってきているのかなと感じています。安心安全に暮らす地域づくりのためには防災が不可欠で、ただ無線機を販売するだけではなく、地域の防災意識を底上げできるような防災ソリューションの開発に貢献できればと思っています」
産官学が垣根を超えて防災産業を生み出す仙台市の「BOSAI-TECH」という枠組みについては「本当に素晴らしいと思う」と評価する。「通常、メーカーは既製品を販売するものですが、今回は一から自治体の課題や情報を汲み上げ、開発・着工、そして実証実験と進んできました。これがこのBOSAI-TECHのしくみの一番の強みだなと思っています。各自治体によって問題は様々で、人口も気候条件も違うので、災害対策も住んでいる街によってやはり全然違うものです。特定の課題にフォーカスして的確に提案でき、また小幡さんという素晴らしい技術者とも出会えた。私としても喜びも感じながら参加できたので、BOSAI-TECHには感謝していますね」
ミライエの小幡さんも、BOSAI-TECHの枠組みがあったからこそ実用的なサービス開発ができたと振り返る。「当社はソフト作りは色々できるのですが、私たちだけだと防災のために何を作ればいいかわからなかった。今回、BOSAI-TECHという枠組みの中で多賀城市様に『こういうものがあったらいい』ということを非常に明確にいただいて、改善のご要望もいただく中で、こういうふうに作ればお役に立てるんだ、と思いながら開発することができたのが非常にありがたかったですね。協働することで、販売面でも力添えをいただけました」
産官学が垣根を超えて防災産業を生み出す仙台市の「BOSAI-TECH」という枠組みについては「本当に素晴らしいと思う」と評価する。「通常、メーカーは既製品を販売するものですが、今回は一から自治体の課題や情報を汲み上げ、開発・着工、そして実証実験と進んできました。これがこのBOSAI-TECHのしくみの一番の強みだなと思っています。各自治体によって問題は様々で、人口も気候条件も違うので、災害対策も住んでいる街によってやはり全然違うものです。特定の課題にフォーカスして的確に提案でき、また小幡さんという素晴らしい技術者とも出会えた。私としても喜びも感じながら参加できたので、BOSAI-TECHには感謝していますね」
ミライエの小幡さんも、BOSAI-TECHの枠組みがあったからこそ実用的なサービス開発ができたと振り返る。「当社はソフト作りは色々できるのですが、私たちだけだと防災のために何を作ればいいかわからなかった。今回、BOSAI-TECHという枠組みの中で多賀城市様に『こういうものがあったらいい』ということを非常に明確にいただいて、改善のご要望もいただく中で、こういうふうに作ればお役に立てるんだ、と思いながら開発することができたのが非常にありがたかったですね。協働することで、販売面でも力添えをいただけました」
多賀城市はこのシステムをさらに充実させ、実用化していく考えだ。加藤さんは今後の構想をこう話す。「大雨による災害も想定し、天気や満潮・干潮の時刻などの情報もシステムに取り込めるといいなと思っています。それから地図に書き込みができる機能があると『この道路が冠水してるから、ここを通る道路は通行止めにしなきゃいけないよね』と線を引いたり、『ここにカラーコーンを置きましょうか』と図を書いたりできるので、とても便利ですよね。本年度にまた実証実験を行うことで、現地職員の声も聴きながらシステムをよりブラッシュアップできたらと思っています」
そして、民間企業と連携しながら、災害時に役立つソリューションの開発に情熱を注ぐ理由をこう語った。「最近では災害が激甚化しているので、いつ起きるか本当にわからない状況にあります。防災は人命を預かるお仕事だと思っているので、自治体もこれまでの課題に対応するだけでは遅い。最新のテクノロジーに関する情報収集をしながら、防災システムをどんどんアップデートして、人も財産も守れるような街にしたい。皆様と意見交換しながら、よりよいシステムが導入できるように頑張りたいなと思います」
そして、民間企業と連携しながら、災害時に役立つソリューションの開発に情熱を注ぐ理由をこう語った。「最近では災害が激甚化しているので、いつ起きるか本当にわからない状況にあります。防災は人命を預かるお仕事だと思っているので、自治体もこれまでの課題に対応するだけでは遅い。最新のテクノロジーに関する情報収集をしながら、防災システムをどんどんアップデートして、人も財産も守れるような街にしたい。皆様と意見交換しながら、よりよいシステムが導入できるように頑張りたいなと思います」
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