レポート

災害復旧を迅速化させる「地図プラットフォーム」を世界へ発信 IQGEO Japan

2021-01-18
地震、津波、台風、大雪…毎年のように災害が起きる日本列島。発災直後は迅速なインフラの復旧が求められるが、復旧作業の情報共有のしくみには課題が多く、その遅れから長期的な停電や断水に見舞われることも少なくない。

地図上でインフラに関するさまざまな情報を共有できるプラットフォームを提供するIQGEO Japanは、このプラットフォームを災害時に復旧に関わる人々や市民が共有できるようにすることで、迅速なインフラ復旧や安全な避難行動ができる世の中を実現しようとしている。

台風15号からの復旧で存在感を示した地図プラットフォーム

イギリス発ベンチャーで東京に支社を構えるIQGEO Japanは、電力、水道、通信などのインフラ系企業向けに、地図上で情報共有ができるプラットフォームを提供する会社だ。地図上に電線など自社の設備がある場所をプロットし、設備のメンテナンス時に効率的な巡回方法を提案したり、補修工事をする際に必要な周辺情報ー付近に車を停めるスペースがあるか、コンクリートを掘り起こす必要があるかなどーを、下見に出向くことなく事前にストリートビューで把握したりできるアプリを開発している。
(設備のある場所を地図で確認し、ストリートビューで周辺情報を把握できる。現場のメモや写真を地図上に貼り、共有することも可能だ)

主にインフラ設備の保守・点検向けのサービスを展開していた同社が「災害」を考えるきっかけになったのが、2019年に千葉県を中心に大きな被害を及ぼした台風15号だ。約2千本もの電柱の倒壊を引き起こしたこの災害では、東京電力が倒壊した電柱や家庭への引き込み線の破損箇所を把握するのに苦労し、千葉県内で停電がおおむね解消するまでに2週間以上もの時間がかかった。

この対応のため急遽プラットフォームとして採用されたIQGeoは、関東圏の地図上に東京電力の有する約700万本の電柱や高圧電線・低圧電線約2000万本をプロット。各家庭のスマートメーターの情報や、ストリートビューから分かる周辺の環境情報、住民からの情報などを総合して電柱の倒壊状態や電気が寸断している箇所を推測し、被害が大きいと推測される地域に作業員を集中的に投入するなど、情報の共有と効率的な人員配置で復旧の迅速化をはかった。この働きが評価され、IQGeoは東京電力パワーグリッド全社の災害時のプラットフォームに採用された。

法人向けサービスから、災害復旧を迅速化するツールへ


これまでは法人向けに展開していた、同社のプラットフォーム。IQGEO Japanジェネラル・マネージャーの山口達也さんは台風15号での経験を元に「このしくみを国土強靭化の一環として広く浸透させた方が、日本のためになるのではないか」と思うようになったという。災害に関するビジネス開発プログラムを調べていた中で山口さんが目にしたのが、仙台市のBOSAI-TECHイノベーション創出プログラムの参加者募集情報だった。「仙台市では世界防災会議も開かれている。東日本大震災の経験を世界に発信していく、という仙台市の情報のベクトルが、日本で生まれた防災システムをグローバル企業として世界に発信していきたい、という自らの思いと一致する気がしたんです」

通年プログラムに参加した山口さんは、大学の講師陣から防災やビジネスに関する体系的な講義を受講したことが「すごく役に立った」と振り返る。「防災を仕事にするためには、さまざまなステークホルダーを束ねていかなければならないことを学びました。今までは机上で考えることが多かったのですが、自分が動いて行動していく必要も感じるようになりました。東北大学や防災科学技術研究所など災害研究分野で人々とのつながりも生まれ、こうした方々と手をつないだ方が日本のためになるのではないか、と思いましたね」
(プログラムに参加している、IQGEO Japanジェネラル・マネージャーの山口達也さん)

同プログラムでは防災の課題を抱える地域企業とパートナーを組み、共に課題解決のサービスを生み出すことを目指している。今回IQGEO Japanのパートナーとなったのは、東北電力だ。東北地方は東日本大震災はもとより、2019年の台風19号でも大きな被害を受けた。両者はそうした災害の発生を想定し、迅速な電力復旧のために地図プラットフォーム上でリアルタイムでさまざまな情報を共有するしくみづくりに向けて実証実験を進めている。

例えば災害時に自動車会社と協働し、どの道路が通れるのかの情報を地図プラットフォームに取り入れる。ドローンによる環境モニタリング事業を展開する会社と提携し、河川の氾濫状況や送電線の被害状況をドローンで撮影して共有するーーなど、さまざまな情報や技術を持つ他社と協力してリアルタイムの情報を地図上に統合していくことで、あらゆる被害状況や復旧状況を一箇所にまとめ、効率的に復旧作業を進められるようなプラットフォームを作ろうとしている。

市民が避難行動にも使えるプラットフォームを目指して

政府、地方自治体、自衛隊、警察、各インフラ会社、研究機関......災害復旧にはあらゆる関係者が関わるが、それぞれが保有する情報が十分共有されているとはいえない状況だ。同社は将来的には地図プラットフォームにそれぞれの持つ情報を入れ込み共有し、全体として復旧が迅速化するしくみが実現できればと考えている。「情報開示のレベルやステークホルダー間の調整など、ハードルは高いです。ただ、これから南海トラフ地震や首都直下型地震が起こるかもしれないと考えると、今のうちにその基盤を作っておきたい、と」

その先に見据えるのは、復旧工事に関わる人々だけでなく、災害時に「市民」が地図上で必要な情報を得られるような未来だ。「防災無線が聞こえて真っ暗な中で避難するしかない中で、避難する道が危険かどうか、避難所が空いているのか、インフラの復旧見込みがいつなのかなど避難を判断するための情報が、家の中で手に入るようになれば。避難行動は、最終的に市民一人ひとりが判断するしかない。自助をフルに発揮できるためのプラットフォームにもなれるはずです」

山口さんが仙台で「防災」に関するサービス開発に取り組む背景には、震災に対する個人的な思い入れもある。「東日本大震災のときは別の外資系企業で働いていたのですが、多少の寄付をしたことで納得して、ボランティアや復旧状況から目を背けていたように思うんです。今回のプログラムに参加して、あのとき何が起きていたのかを授業で見たとき、目を背けてはいけないものから背けてたんだな、と。これが償い、恩返しできる機会になるのかなと思うんです。一次被害は防げないけれど、二次災害をどう防げるか。今自分はそれを極小化することに貢献できる立ち位置にいるのではないかと思うんです」

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