レポート

「防災」を世界に発信するには?JETRO職員が見た“BOSAI-TECH”の可能性

2021-10-08
東日本大震災を経験した仙台市が、防災に関するテクノロジーを産業として育てていく「BOSAI-TECH」の取り組み。その大きな特徴は、国内だけでなく海外企業とも連携し、防災分野の技術革新や海外市場への展開まで視野に入れている点だ。海外企業向けのプログラム運営に関わる日本貿易振興機構(JETRO)仙台貿易情報センターの二人に、国際的な視点から「BOSAI-TECH」の可能性を聞いた。

地方都市の仙台が、海外企業を直接誘致する画期的なプログラム

仙台市では「BOSAI-TECH」事業を始めた2019年度から、JETROおよび経済産業省と共に防災分野で海外企業と連携したプログラム「RBC(地域への対日直接投資カンファレンス)2019」をスタート。仙台市と産業振興協定を結ぶフィンランドのIT企業8社を仙台市へ招待し、津波からの避難を容易にするような技術の開発合宿(ハッカソン)を行うなどの取り組みを進めてきた。

2020年度には新型コロナウイルス対策のため、「RBC」は完全オンラインのプログラムとして再始動。欧米やアジア各国から37社の応募があり、採択された9社がプログラムに参加した。このプログラムの海外企業へのPRや誘致を担当してきたのが、JETRO仙台貿易情報センターの井上元太さんだ。井上さんは仙台市の取り組みをこう話す。

「仙台市からは当初から、“BOSAI-TECH”に海外の企業を巻き込んでいきたい、海外企業に仙台に拠点を作ってもらいたい、とのお話がありました。東京ではなく、地方都市である仙台市が直接海外企業を誘致する取り組みはとても画期的なことだと思います。JETROでは海外55カ国にある76事務所のネットワークを生かし、日本の地方でのビジネスに関心を持ってもらう取り組みをしたり、日本進出を考える企業に積極的にアプローチをしたりとプログラムへの誘致活動をしてきました」
(JETRO仙台貿易情報センターの井上元太さん)

世界中から集まる「防災テック」のアイデアを事業に

昨年度の「RBC2020」には、仙台市に支店を置く第一生命保険株式会社、三井情報株式会社、株式会社NTTドコモ、東京海上日動火災保険株式会社の大手企業4社がパートナー企業として参加。海外企業として採択された、アメリカ、台湾、韓国、インドネシア、中国、タイ、フランスと多様な国・地域の9社と協議を重ねた。

プログラムでは日本側の各パートナー企業が「災害時の避難や救助に寄与するソリューションを提案してほしい」など、解決を求める防災上の課題を提示。海外企業はそのテーマに基づき、約半年間でアイデア段階から事業案を練り上げていった。

最終ピッチでは、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)でストレスの軽減をはかるヘルスケアアプリの開発企業、ドローンを用いた遭難救助サービスを提供する企業など、各企業が自社の技術を生かした新事業を提案。パートナー企業がそれぞれの案を採択するかどうか判断し、採択された案については2021年度も事業化に向けた取り組みが継続している。
(オンライン開催となった2020年度RBCの海外企業向けセミナーで挨拶をする井上さん)
井上さんは、日本と海外の企業が共創により事業開発を進める同プログラムの意義をこう語る。「日本の企業にとっては、オンライン化で世界の企業と競争しなくてはならなくなる時代に、より付加価値の高い商品やサービスを提供できないと生き残れなくなってきています。そのような中で仙台市やJETROと協力して海外企業とオープンイノベーションを進められるということに対して感謝の声をいただきました。海外企業にとっては、このプログラムを足がかりに『日本でビジネスを始められる』という期待感を醸成できたと思います。日本進出を考える海外企業にとっては、事業案が採択まで結びつかなくても、日本の大手企業から直接フィードバックがもらえる経験はとても貴重なものですから」

井上さんとともにプログラム運営に関わるJETRO仙台貿易情報センターの白石広美さんも、地方発の画期的なプログラムとして手応えを感じつつある。「本プログラムで行ったことについてJETRO内で報告をしたところ、他県のJETRO貿易情報センターからも問い合わせがありました。全国的にも先進的な取り組みとして注目されているのを感じるので、仙台市にはぜひ続けてほしいし、サポートを続けていきたいですね」
(JETRO仙台貿易情報センターの白石広美さん)

「BOSAI-TECH」の炎を絶やさず、世界へ発信していくために

「防災」を産業として育て、世界へ発信していく。そんな仙台市の取り組みは始まったばかりだ。井上さんは今後の課題をこう語る。

「災害大国の日本では『防災』というのは当たり前の言葉ですが、ほとんど地震が起きない国などでは『防災』や『減災』はあまりなじみのない言葉で、自分ごとにはなりにくい。そこで、より大きな概念として国際的な関心の高い『SDGs』『気候変動問題』に取り組んでいくことを強く打ち出すことで、海外の方にもより関心を持ってもらえるのではないかと思います。また、いつ起きるかわからない『防災』を民間企業がビジネスとして続けていくのは難しい。日常から使えるサービスとして運用し、災害発生時に応用が効くものにするなど、いかにビジネスとしてサステイナブルな仕組みを作るかが大事になってくると思います」
地方都市のモデルケースになりうるこの事業に、井上さんは大きな期待を寄せている。「日本という国自体が世界の中で注目を浴びにくくなっている。また、人口減少は日本のマーケット縮小につながり、とりわけ東北地方は減少幅が顕著である。ゆえに、日本経済を維持・発展させていくためには、海外の資金やアイデアをいかに引っ張ってくるかが大変重要だと思います。そこに地方自治体として取り組んでいるのは、ものすごく意味があること。5年、10年と継続して長期的に取り組んで初めて成果がでる事業で、粘り強く続けることできっとブランドになる。この炎を絶やすことなく続けてほしい」

白石さんはRBCへの参加を検討する海外企業に向けて、出身地でもある仙台市をこうアピールする。「仙台は新しいものを受け入れる懐の広さがあり、大学にも全国各地から人が集まってくる。多様性への寛容さがある、『イノベーションの素養を持つ地域』だと思います。外国企業にとってはそもそも日本の人や企業とどうコミュニケーションしていいかわからないところがあると思うので、そうした点について、これからもJETROが相談に乗ったり支援したりできればと思っています」


写真撮影場所:WeWork JRイーストゲートビル

日本貿易振興機構(JETRO)仙台貿易情報センター
https://www.jetro.go.jp/jetro/japan/sendai/

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