事業者に聞く
全国共通ツールで災害時の社会課題を解決後、BtoB領域でのマネタイズを目指す/プライムバリュー
2022.11.22
仙台BOSAI-TECHイノベーション創出促進事業に採択され、災害時の物資要請の仕組みを統一化するクラウドソリューションを開発したプライムバリュー株式会社。災害時に不可欠となる大量の物資だが、自治体と企業間のやり取りはアナログで煩雑だという。東日本大震災で課題は顕在化したものの解決に至っていなかった難しい領域に切り込んだ同社。実証実験を終え、社会実装を進めているプライムバリュー代表の吉田亮之氏に、具体的にどんな課題を解決するソリューションを生み出したのか、お話を伺った。
10年以上変わらなかった、災害時の物資要請の仕組み
- プライムバリューが、災害時の支援物資供給を効率化するためのクラウドソリューションを開発するに至った経緯を教えてください。
きっかけは、2020年に仙台市が開催した「仙台BOSAI-TECHイノベーションプログラム」に参加したことでした。そこで出会ったコープ東北から、災害時の「物資要請の仕組み」が10年以上変わっていないことを聞き、その解決策を模索したのが始まりです。
- 物資要請の仕組みを教えてください。
各自治体は大きな災害に備えて、スーパーやドラッグストア、飲料メーカー、食品メーカーなど“複数”の大手小売企業と物資供給の協定を結んでいます。大企業側も1つの自治体だけでなく、たとえばコープ東北は宮城県内だけで20以上の自治体と協定を結んでいました。
災害が起きると自治体から企業へ物資要請が届き、企業は物資を用意・調整して現地に運ぶのが、従来の物資要請の仕組みです。ただ、問題なのは依頼手段がFAXや電話などアナログなもので、各自治体のフォーマットもバラバラなこと。
限られた地域の災害ならアナログでバラバラでも問題にならなかったかもしれませんが、2011年の東日本大震災ではこの仕組みが大問題になりました。
具体的には大震災後、コープ東北には協定を結んでいる数十の自治体から電話やFAXで大量の依頼が届きました。その情報は必ずしも正しいとは限らないため、担当者は自治体に確認の電話をして情報を整理し、社内向けに依頼内容をデータ化して物資運搬の調整をするなど、かなり大変な作業が発生していたそうなんです。
自治体側もアナログな方法で複数社に向けて物資要請をするため、物資が運ばれてくる避難所は混乱しました。これは自治体の規模が大きくなればなるほど致命的で、マンパワーでどうにかするのにも限界がありました。
災害が起きると自治体から企業へ物資要請が届き、企業は物資を用意・調整して現地に運ぶのが、従来の物資要請の仕組みです。ただ、問題なのは依頼手段がFAXや電話などアナログなもので、各自治体のフォーマットもバラバラなこと。
限られた地域の災害ならアナログでバラバラでも問題にならなかったかもしれませんが、2011年の東日本大震災ではこの仕組みが大問題になりました。
具体的には大震災後、コープ東北には協定を結んでいる数十の自治体から電話やFAXで大量の依頼が届きました。その情報は必ずしも正しいとは限らないため、担当者は自治体に確認の電話をして情報を整理し、社内向けに依頼内容をデータ化して物資運搬の調整をするなど、かなり大変な作業が発生していたそうなんです。
自治体側もアナログな方法で複数社に向けて物資要請をするため、物資が運ばれてくる避難所は混乱しました。これは自治体の規模が大きくなればなるほど致命的で、マンパワーでどうにかするのにも限界がありました。
- たしかに、アナログだと何が届いて何が届いていないのかを把握するのも大変ですね。
この問題は大災害が起きていない地域の自治体は気づいていない可能性があるのではないでしょうか?
気づいていないと思いますし、被災した自治体も自分たちの要請方法しか知らないので、広範囲で何が起きているのかは認識できていないと思います。
ただ、この問題が10年以上放置されていたのには理由がありました。たとえば仙台市が独自でシステムを導入しても、他の自治体がバラバラのままでは企業からするとインターフェイスが増えるだけですよね。
一方、企業側がシステムを開発しても、自治体は災害時しか必要のないシステムに利用料を支払えません。つまり、マネタイズができないんです。双方でいびつな関係がある上に、課題が顕在化するのは大災害時のみだから、10年以上放置され続けたのだと思います。
ただ、この問題が10年以上放置されていたのには理由がありました。たとえば仙台市が独自でシステムを導入しても、他の自治体がバラバラのままでは企業からするとインターフェイスが増えるだけですよね。
一方、企業側がシステムを開発しても、自治体は災害時しか必要のないシステムに利用料を支払えません。つまり、マネタイズができないんです。双方でいびつな関係がある上に、課題が顕在化するのは大災害時のみだから、10年以上放置され続けたのだと思います。
自治体と企業が共通で使うクラウドソリューションを開発
- この課題を解決するためにプロダクトを開発し、仙台市とコープ東北との実証実験をされたのですね。
そうです。日本はいつ大災害が起きるかわからないし、2011年の教訓から学ばないわけにはいきません。内閣府の防災担当の方からも、課題は重いけれど手をつけにくい領域だと言われたので、日本の災害環境を改善しようと、取り組み始めました。
開発したのは、自治体と企業が共通で使うクラウドソリューション「B-order」です。災害時の物資要請はチャットで簡単にやり取りができ、物資の依頼・配送状況はステータスで確認できるようにしました。
開発したのは、自治体と企業が共通で使うクラウドソリューション「B-order」です。災害時の物資要請はチャットで簡単にやり取りができ、物資の依頼・配送状況はステータスで確認できるようにしました。
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クラウドソリューション「B-order」画面
こだわったのは、災害時でも混乱せず使えるよう、とにかくわかりやすいインターフェイスにしたこと。このソリューションを主に仙台市とコープ東北に使っていただくことで実証実験を重ねた結果、双方から「災害時に役立つ」と評価をいただきました。
- 「B-order」は、被災した地域は受け入れやすいと思いますが、被災経験がない自治体はイメージがつかないかもしれません。
今はイメージがつきやすい東北や関東の主要な自治体への導入から始めています。すでに宮城県では多くの自治体が導入し、その状況を見て山形県や福島県など近隣の県で次々と導入が決まりました。現在は関東圏の群馬、栃木、千葉、埼玉、東京にもアプローチしています。
- かなり早いペースで導入が進んでいるのですね。企業側に導入障壁はありますか?
導入障壁を可能な限り下げたモデルで提供しています。自治体と企業双方で基本的な機能を無料で提供することでいち早く協定先と繋がって頂くことが出来ます。実際、企業側から協定を結んでいる自治体を紹介いただくケースも増えています。
社会課題を解決後、BtoB領域でのマネタイズを目指す
- 先ほど、企業がシステムを開発して自治体に導入してもマネタイズできないというお話がありました。
「B-order」はどのようにマネタイズするのでしょうか?
B-orderを物資要請に関わるすべてのプレイヤーの共通ツールにしないと社会課題は解決しないので基本的な機能は無料で使えるようにしましたが、マネタイズポイントはいくつか設けています。
もちろん、基本的な機能範囲も有料サービス前提にできますが、そうするとユーザーを選ぶことになりますよね。予算のある大きな自治体は導入できても、小さな自治体が導入できないのなら意味がない。2、3年で日本の共通ツールにするためには、物資要請機能を無料にするのが合理的でした。
ただ、無料で使える範囲は制限があるので、他のいろんな機能、たとえば複数のアカウントで使いたい場合や、備蓄品の管理などにも使う場合は、有料版をご利用いただきます。
ただ、無料で使える範囲は制限があるので、他のいろんな機能、たとえば複数のアカウントで使いたい場合や、備蓄品の管理などにも使う場合は、有料版をご利用いただきます。
- なるほど、小さな自治体は無料版を使ってもらい、大きな自治体でいろんな管理コストを下げたい場合は、有料版を使ってもらうイメージですね。
そうですね。ただ、これではビジネスとしてスケールが難しいので、物資要請における社会課題を解決できたら、B-orderの受発注の仕組みをそのままBtoB領域に展開します。実は、BtoB領域でのマネタイズは初期の頃から決めていました。
というのも、企業間の受発注時にも似たような課題があって、いまだにFAXや電話でのやり取りが多いんですね。だから発注から調整、確認、受注まで一気通貫で管理できる企業間の共通ツールとしてリリースします。
世の中にはすでに受発注システムがたくさんありますが、B-orderの競合優位性は「全国の自治体と日本を代表するような大手企業が使っているツール」だと謳えることです。この、どこにも真似できない強みを生かして、FAXに代替するツールとしてBtoB領域に展開したいと考えています。
というのも、企業間の受発注時にも似たような課題があって、いまだにFAXや電話でのやり取りが多いんですね。だから発注から調整、確認、受注まで一気通貫で管理できる企業間の共通ツールとしてリリースします。
世の中にはすでに受発注システムがたくさんありますが、B-orderの競合優位性は「全国の自治体と日本を代表するような大手企業が使っているツール」だと謳えることです。この、どこにも真似できない強みを生かして、FAXに代替するツールとしてBtoB領域に展開したいと考えています。
- 物資要請の領域で全国の自治体と大手企業を先に取り込むことで、その強みをビジネスに生かす。
全国すべての企業が持つツールになり得ますね。
それを目指しています。特にデジタル化が進んでいない中小企業は、企業間取引のコミュニケーションコストがものすごく高いので、B-orderでそれらの課題を全て解消し、企業間の受発注時には当たり前に使われるツールにしたいと思っています。
2、3年後、B-orderは日本全国の共通ツールに
- 今後、どれくらいの時間軸で「B-order」の全国導入を目指していますか?
まずは2023年10月までに東日本の区市レベルで50%の導入を目指しています。特に東京都は非常に重要な地域と考えています。早いタイミングで網羅できるよう重点的にアプローチしています。
- 人口の多い都内は導入しない理由がない。
そうなんです。みなさん課題感は持っていて、従来の物資要請の仕組みは問題だけど、どうすればいいかわからなかったと言われるので、今年中には東京都である程度の導入を進める予定です。
そうして東日本の共通ツールになれば、西日本の自治体や企業も続くはず。このネットワークの強みを最大限に生かして、2、3年後には全国共通のツールにしたいと考えています。
今回、仙台BOSAI-TECHに参加していなかったら、物資要請の仕組みに大きな問題があることを知り得なかったし、何よりB-orderというプロダクト自体生まれていませんでした。
でも、東日本大震災から10年以上経っても変わらない物資要請の仕組みと、この仕組みのままでは同規模の災害が起きたとき、同じ問題が繰り返されるという事実を知って、私は放置できませんでした。この社会課題を解決するのは私の使命だな、と。
そうして東日本の共通ツールになれば、西日本の自治体や企業も続くはず。このネットワークの強みを最大限に生かして、2、3年後には全国共通のツールにしたいと考えています。
今回、仙台BOSAI-TECHに参加していなかったら、物資要請の仕組みに大きな問題があることを知り得なかったし、何よりB-orderというプロダクト自体生まれていませんでした。
でも、東日本大震災から10年以上経っても変わらない物資要請の仕組みと、この仕組みのままでは同規模の災害が起きたとき、同じ問題が繰り返されるという事実を知って、私は放置できませんでした。この社会課題を解決するのは私の使命だな、と。
- 社会課題を解決したい思いが強かったから、ソリューションを生み出せた。
思いがなければ、それ単体ではマネタイズができないから諦めていたと思います。
B-orderは、自治体と企業間で使う物資要請領域で必ずデファクトスタンダードを取れると確信しているので、なるべく早いタイミングで全国導入を実現し、BtoB領域で一気にスケールさせて上場まで持っていきたい。社会課題解決とビジネスが両立することを証明したいと思っています。
B-orderは、自治体と企業間で使う物資要請領域で必ずデファクトスタンダードを取れると確信しているので、なるべく早いタイミングで全国導入を実現し、BtoB領域で一気にスケールさせて上場まで持っていきたい。社会課題解決とビジネスが両立することを証明したいと思っています。
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