事業者に聞く
避難所の運営を手助けする「顔認識アプリ」の開発に挑む トレック
2021.01.26
災害発生時に各地で開設される「避難所」。災害時の住民の拠りどころとして重要な役割を担うが、その運営の多くは手作業を伴うもので、現場で働く人々の負担は依然大きい。仙台のIT企業トレックの若手エンジニア二人は、避難所の入り口に「顔認識アプリ」を設置することで、現場の受付業務の軽減や避難者の情報共有に役立てられないかと考えている。
「5G」を活用して、地域の防災ソリューションを生み出す
普段はエンジニアとして業務効率化システムを開発している、トレック社員の山下美保さんと森田翔太さん。同社に入社してまだ日が浅い二人は、上司の勧めで仙台市BOSAI-TECHイノベーション創出プログラムを知り、応募した。「仙台の地域企業として、地域の貢献につながる取り組み。新規事業の開発の経験がないので、学びも得られると感じました」と、山下さん。森田さんは「仙台で働くなら、地域の防災は避けて通れない話題だと思っていました」と、参加の動機を語る。
プログラムで同社のパートナーとなったのは、フィンランド大手通信会社のノキアだ。ノキアが取り組みたい課題として提案したのは「5Gを活用した防災ソリューション開発」。大学で通信系の研究をしていた森田さんにとって関心の高いテーマだったが、「自由度の高いテーマの中で、ゼロから考え、新規事業を生み出していく過程が難しかった」と振り返る。5Gという新しい技術と可能性を用いて、地域に根付く企業とグローバル企業とが連携することで、どんな新しい防災ソリューションを生み出せるか。議論を重ねる日々が続いた。
プログラムで同社のパートナーとなったのは、フィンランド大手通信会社のノキアだ。ノキアが取り組みたい課題として提案したのは「5Gを活用した防災ソリューション開発」。大学で通信系の研究をしていた森田さんにとって関心の高いテーマだったが、「自由度の高いテーマの中で、ゼロから考え、新規事業を生み出していく過程が難しかった」と振り返る。5Gという新しい技術と可能性を用いて、地域に根付く企業とグローバル企業とが連携することで、どんな新しい防災ソリューションを生み出せるか。議論を重ねる日々が続いた。
台風での経験から考えた「避難所」の運営効率化システム
そんな中で新規事業に結びつくアイデアの元になったのが、山下さん自身の災害時の経験だった。「2019年の台風19号のとき、住んでいる場所に避難勧告が出たのですが、外はすごい暴風で。もし避難した先で避難所がいっぱいだったら、と思うと避難するのを躊躇してしまったんです。どんな荷物を持ってどこにいけばいいのか、避難所って存在は知っているけど、使うとなると利用イメージがあまりわかない。そんな避難所にまつわる問題を解決できないか、と考えるようになったんです」
二人は取り組むテーマを「避難所に関する課題解決」に設定し、ノキア社や仙台市などへ課題のヒアリングを重ねた。そこから考案したのが、避難所の入り口に「顔認識アプリ」を搭載したタブレット端末を設置することだった。
仙台市の避難所では、受付の職員が避難者の人数や年齢・性別といった属性を手書きで記入・集計し、本部に2〜3時間ごとに報告しているという。もし避難所の入り口に「顔認識アプリ」があれば、カメラの前を通過した人の人数や年齢などの属性をAIが判別し、データを自動で本部に送信することが可能となる。実現すれば、受付の職員や避難者の手間を大幅に減らすことができる上に、市民が避難所の空き状況をリアルタイムで把握できるサービスにも活用できると考えた。
山下さんは「避難所ごとの人数や避難者の属性をすぐに把握できるシステムをつくることで、この避難所には女性が多いからこういうものを優先的に配布しよう、という支援物資の効果的な振り分けもより速くできるはず。台風のときの自分の経験から、避難所が空いているかどうかがリアルタイムでわかれば、安心して避難できるという人もいるはずです」と、その意義を語る。
さらにこの顔認識アプリを発展させれば、災害時に家族がどの避難所に避難しているのかを知ることができる安否情報サービスにも繋げられるかもしれない、と二人は構想する。避難者のプライバシーを確保した上でどのような情報開示のしくみを作るかは議論の最中だが、例えば開示範囲を本人が決定する、本人確認書類の提出を求めるなどの方法を考えている。
二人は現在、他社の類似サービスのリサーチや自治体へのヒアリングを通じ、本当に必要とされる機能を調査している段階だ。アプリの開発に向け、森田さんは「最初に画面として動かすまでが大変だと思いますが、動いたときには達成感があるはず。これからの期間で、そこまでの課題を潰していけたら」と話す。
「あったらいいな」から、課題解決サービスを考えていく
新規事業の立ち上げは初めての経験だった二人。事業開発にあたっては、パートナーであるノキアや仙台市のプログラム担当者からのサポートが大きな力になったという。山下さんは「アイデア出しに苦しんだ時期が長かったのですが、ノキアさんに相談するといろんな分野でのアイデアの種をわけてくれ、そこから事業のアイデアにつながることもありました」。森田さんは「スタッフやメンター、事務局も手厚く、いろんな方がアイデアや助言をくれました。なかなかない機会で、色々学ばせてもらいました」と振り返る。
「自分の困った経験をベースにした」という避難所向けのサービス。山下さんは「有事のときにこれがあれば、安心材料のひとつになる。実現したら自分も便利だと思うので、目の前の一つ一つに誠実に取り組んで実現できたらと思います。これからもっとわくわくするような要素も入れていきたいですね」。森田さんも「自分が欲しいものをベースに考えて、あったらいいな、というものを探してきた。地域の課題を解決するサービスを作っていけたら」と意気込んだ。
株式会社トレック
http://www.trek.co.jp/
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