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Interview

音声加工技術で防災無線の音声を聴き取りやすく。避難訓練で住民参加型の実証実験を実施/サウンド

2023.01.19
  • サウンド株式会社
  • Audio、Voice
仙台BOSAI-TECH Future Awards2022」に採択された、九州大学発のベンチャー企業・サウンド株式会社。独自の「音声加工技術」で、高齢の難聴者でも既存の屋外スピーカーから防災無線の音声を聞き取りやすくする技術を開発している。そんな同社は仙台市とタッグを組み、実際の避難訓練の場を活用して住民参加型の実証実験を行った。具体的にどのような知見や成果を得られたのか、サウンド代表の小山昭則氏に話を伺った。
高齢の難聴者でも、あらゆる場面で音声を聞き取れる世界を目指す
- サウンドのミッションと、独自に開発された音声加工技術について教えてください。
ミッションは、高齢の難聴者でもあらゆる場面で音声を聞き取れる世界を実現させることです。人の聴覚は加齢によって衰えるため、高齢者の難聴を解決するには補聴器を装着する必要があります。でも補聴器の普及率も装着率も低いのが現状。

そこで、加齢によって聴き取りにくくなる音声、具体的には“子音”をAIで特定し、補聴器をつけなくても聴き取りやすい音声に加工しています。
- 今回、仙台BOSAI-TECHに参加したのは、どのような背景があったのでしょうか。
個人的に熊本地震の際にボランティア活動をした経験があり、何かしらの方法で防災に貢献したい思いは持っていました。でも我々の音声加工技術は、民間企業とのコラボで製品やサービスとして提供することを目指していたので、当初から防災無線に使えるとは考えていなかったんですね。

でも仙台BOSAI-TECHの話を知人から聞き、音声加工技術は防災の領域で行政にどう受け取られるのか、どんな反応を得られるのかを知りたくて、応募したのが始まりです。結果、我々の技術は採択され、2021年から仙台市での実証実験が始まりました。
実際の避難訓練を活用し、住民参加型の実証実験を実施
- 具体的にどのような実証実験を行ったのか教えてください。
2021年は、仙台市の職員さんに協力いただいて、仙台市の沿岸部にある既存の防災無線から従来の音声と弊社が加工した高齢者に寄り添った音声の聴き比べを行いました。

防災無線は屋外の騒音や複数のスピーカーによる音声の重なり等から、聴こえづらいことがよくあります。もちろん、スピーカーそのものを入れ替えると聴こえやすくなりますが、そうではない選択肢の可能性を試すために、音声加工技術で既存の防災無線の音声を加工して、それを屋外スピーカーで流して聴こえ方の違いを確認しました。
- ハードウェアを入れ替えるのではなく、ソフトウェアで既存のスピーカーに付加価値をつけた。
そうです。実証実験の結果、かなり良好な成果を得られたので、翌年の2022年6月には仙台市の蒲生地区で行われた避難訓練の場を提供いただき、約100人の住民が参加した実証実験を行いました。

具体的には、既存の音声と加工した音声を300メートル離れた防災無線から流し、年代別にどちらの音声が聴き取りやすかったか、もしくはどちらも同じだったかを、ボードにシールを貼ってもらう形でアンケートを取りました。

すると、8割以上の人が加工した音声が聴き取りやすいと評価し、60代以上の高齢になるほど「どちらも同じ」と評価する人が激減するという結果を得られたんです。
  • 仙台市蒲生地区で行われた避難訓練で、ボードにシールを貼ってもらう形でアンケートを取った

大学の研究室では年齢によって聴き取りやすさの違いが出てくるのはわかっていたのですが、実際のフィールドでそれを再現できたのは、我々にとっても非常に大きな一歩となりました。
仙台BOSAI-TECHは日本の避難訓練をアップデートするきっかけに
- 防災無線を聞く住民を巻き込んで実証実験ができたのは、大きな意味がありますね。今回の結果をもとに、これから社会実装を進めていくのでしょうか?
そうですね。ただ、課題は他にもたくさんあるので、すぐに実装できるわけではありません。たとえば、防災無線に使われている音声は女性の音声が多いのですが、高齢になると女性の声が聴き取りづらくなることもわかってきたんです。

人生60年時代は女性の音声で問題なかったかもしれませんが、人生100年時代の今、音声そのものを男性の音声に変えて加工し、実装する方が良いかもしれません。

今回、仙台市との議論を重ねることで、このような従来の常識を疑うきっかけや、さまざまな示唆を得られたことは大きな成果です。これからさらに検証と検討を重ねて実装につなげたいと考えています。
- サウンドの今後の展開について教えてください。
マネタイズの主軸としては、民間企業との協業によって聴こえやすい製品やサービスを開発し、将来的な事業拡大を目指しています。そこに並行して、防災無線の実装に向けて仙台市との検討も進めたいと考えています。

我々の目標は、高齢の難聴者が補聴器を使わなくても必要な音をきちんと拾える世界を作ること。その手段を追求していきたいですね。
- いずれは、防災無線の全国展開や商業施設、駅などの音声にも展開していくのでしょうか?
課題が大きいのは防災領域だと考えているので、まずは仙台市の防災無線に実装することに注力し、実装後は他の地域でも検討できればいいなと考えています。

防災×テクノロジーの領域は、先人が少なく正解もないので、確実に時間がかかると思っています。でも、その正解を見つけていくプロセスを仙台市と一緒に開拓していけること自体、我々としてはとてもありがたいことです。

今回、避難訓練の場をお借りした実証実験を通じて、仙台BOSAI-TECHの取り組みは日本の避難訓練をアップデートするきっかけになると実感しました。日本は災害の多い国だからこそ、さまざまな技術が仙台BOSAI-TECHを通じて実装されていく世の中になることを願っています。
避難訓練に参加した町内会長のコメント
- 防災無線に対して課題は感じていましたか?
防災無線の聴き取りづらさは、ずっと課題に感じていました。何を言っているかわからないだけでなく、町内にある複数の防災無線から流れる音声が重なってしまい、聴き取りにくかった体験もあります。はっきり聴こえないと住民の避難が遅れてしまいますし、その状態に慣れてしまうといざというときに命を危険にさらしてしまいますよね。

でも、今回の避難訓練で流したサウンドの音声は、私自身とてもクリアに聴き取れましたし、住民アンケートの結果でも8割以上の人が聴こえやすいと答えていて、とても素晴らしいと思いました。防災無線の聴き取りにくさは高齢者にとって命に関わる大きな課題なので、聴き取りやすい音声加工技術の実装に期待したいです。
- 避難訓練で新しい技術を試すことについて、どう感じましたか?
津波を経験した仙台市は中高齢者ほど防災意識が高く、多少足腰が弱くても避難訓練に参加する人は大勢います。一方で、東日本大震災を経験していない小学生は津波を知らないですし、中学生は覚えていません。

だから、今回は地域の中学校に声をかけて中学生にも参加してもらったのですが、若い世代も高い防災意識を持ち、避難訓練に参加するのを当たり前にするためにも、避難訓練で新しい技術を試すことや、新しい工夫を取り入れるのはとても大事なことだと実感しました。毎回同じ避難訓練ではなく、有事の際に生かされるよういろんな工夫をすることで、防災意識を高めていきたいです。

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