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段ボールジオラマ×デジタル技術 震災の伝承をテーマに実証実験を実施/多賀城市と防災ジオラマ推進ネットワークが協力

2024.03.12
  • 多賀城市
  • フロッグス株式会社
  • 一般社団防災ジオラマ推進ネットワーク
  • AR、VR、MR
  • 3D技術、地図・空間情報
  • BOSAI-TECH事業創出プログラム

市民に向けた震災の伝承や防災教育が課題

  • じっくりと展示を見る男性

2011年3月11日。大地震と真っ黒な津波が、多賀城市を襲った。沿岸部を中心に甚大な被害を受け188名の尊い命が失われたが、あれから13年が経過し、現在の市にその爪痕はほとんど見られない。

震災アーカイブサイト「たがじょう見聞憶」や、多賀城高校災害科学科による「津波波高標識」の設置、「津波伝承まち歩き」などのコンテンツを通じて、市はこれまでも震災の被害について語り継いできた。しかしこれらは自らアクセスしていかねば見られない特性上、震災後、新たに多賀城市に移り住んだ人にとって知る機会はそう多くない。こうした背景から市は「震災の伝承」を課題として挙げ、これまでよりも広く市民に震災について知ってもらう方法を模索し始めた。

そこで多賀城市は、2022年度に引き続き「仙台BOSAI-TECH Future Awards 2023」を活用することに。「市民・観光客への震災伝承・防災教育」をテーマに定め、それに役立つソリューションアイデアを募集した。

手を挙げたのが、マーケティング会社のフロッグス株式会社代表取締役であり、一般社団法人防災ジオラマ推進ネットワーク代表理事を務める上島洋さんだ。防災ジオラマ推進ネットワークは東日本大震災後に設立され、身近な素材である段ボールを使って作るジオラマを通じて、防災意識の向上を目指している。

段ボールジオラマとは、等高線に沿ってカットした段ボールをパズルのように積み重ねることで、地形や土地の高さなどが直感的にわかる組立式のジオラマだ。組み立てに要する時間は20分ほど。子どもでも簡単に作れるため、東北を起点に全国でワークショップを開催し、遊びの延長で防災感覚を育む取り組みを続けている。
  • 等高線に沿ってカットした段ボールを重ねて地形を再現

デジタル技術を活用し、より防災への理解が深まる仕掛けを作成

多賀城市が抱える課題に対し、フロッグス/防災ジオラマ推進ネットワークが、段ボールジオラマにARなどのIT技術を掛け合わせた企画を提案。それが課題解決に寄与すると判断され、採択に至った。

採択後は市と事業者とで相談を重ね、実現したのが、今回の取組みだ。

まず、2022年に宮城県が公表した津波浸水想定に基づくシミュレーション動画と震災時の浸水範囲を再現した動画の2種類を作成し、それをプロジェクションマッピングを用いて展示した。
  • 東日本大震災時の津波浸水範囲をプロジェクションマッピングで投影

  • 最新版では、より広い範囲に津波が到達すると予想されている

ARを活用した取組みとしては、多賀城高校災害科学科による「津波伝承まち歩き」の他、「多賀城の史跡周遊コース」、「歌枕」などを紹介するコンテンツを作成した。

これは、展示場所に設置されたQRコードをスマートフォンなどで読み込むことで利用できるもの。読み込んだ後、来訪者は興味のあるコンテンツを選択し、デバイスをジオラマに向けてかざす。すると画面上に関連する画像が表示され、画像をタップすることでそれぞれのコンテンツについての詳細な説明や動画にアクセスできる仕組みだ。

来訪者はこうしたインタラクティブな体験を通して、まちの歴史や文化に触れつつ、防災への意識をより深めることができる。
  • スマートフォンをジオラマに向けてかざす様子

  • 表示された画像をタップすると、より詳細な説明が見られる

自治体と事業者から見た、仙台BOSAI-TECH Future Awardsの魅力とは

「仙台BOSAI-TECH Future Awards」の魅力について、多賀城市総務部危機管理課防災減災係の加藤雄一さんは自治体の視点からこう語る。

「防災について、市の課題を改めて考え、洗い出す良いきっかけになりました。また、実際のニーズに合った提案をしてくれる事業者と出会えることも、大きなメリットだと感じます」

加藤さんによると、市には日々さまざまな提案が持ち込まれるが、実情に即していないものもあり、需要と供給の間にミスマッチが生じている。しかし同プログラムでは、事前に自治体が洗い出した課題をテーマに掲げ公募するため、事業者はニーズにマッチした提案が可能になるという。

同様の意見は、事業者側の上島さんからもあがった。多くのこうしたコンテストでは、採択する側のニーズが不明確な場合も多く、的外れな提案になりがちだという。しかし同プログラムでは自治体と事務局が密接に連携し、課題を明確に洗い出し、具体的なテーマを設定している。これにより提案のミスマッチを防ぎ、事業者がより的確な提案をしやすくなっているという。

こうした意見について、「仙台BOSAI-TECH Future Awards」事務局の担当者はこう話す。

「同プログラムの目的は、IT企業やスタートアップ企業が提案する技術を活用した防災関連のアイデアやソリューションの創出を促進することです。そのため、事業者がよりスムーズに提案できるような運営を意識しています。例えば、自治体から挙がってくる具体的で細かな問題点をより高い抽象度でとらえ直し、再構成するなどです。これにより事業者は提案しやすくなり、防災分野におけるイノベーションの創出が期待できます。また同時に、自治体が直面する防災課題を解決する手助けになれればとも考えています。こうした思いで運営を行っているので、期待に応えられているのであればうれしいです」

実証実験の結果をもとに、今後の防災教育に役立てる

今回の実証実験を通して得られたアンケート結果や、QRコードを読み取られた回数などのデータを活用し、多賀城市と事業者はそれぞれ今後の展開を検討している。
ジオラマの活用は市として初の試みであり、有効性を評価するために、子どもから高齢者まで年代別の反応や関心の度合いを分析する。これにより今後も継続するか、異なる切り口のアプローチを試すかといった、取り組みの方向性を決めるのに役立てたいとしている。

加藤さんは、2024年1月に起きた能登半島地震や間近に迫る(取材時)3.11により、市民の防災意識が高まっていることに触れ、「日頃の備えや、危険を察知したらすぐに避難することの重要性を再認識してほしい」と話す。また防災意識の向上とともに、地域の歴史や文化、歌枕といった文化財について知識を深めてもらうことにも期待している。

一方、事業者側では、どの年代からどのような意見が出ているか、どのコンテンツがとくに関心を集めているかなどを分析し、今後のコンテンツ開発に活用する意向だ。
防災ジオラマ推進ネットワークは、これまでの展示は防災展や博物館内などを中心に行われてきたが、これらの場所はすでに防災意識の高い人が集まる傾向が高い。図書館のように日常的にさまざまな人が訪れる場所での展示に踏み出すことで、普段は防災を意識していない一般の人々にも防災の重要性に気づいてもらえるような機会が提供できるとしている。

上島さんは、「そういう意味で、駅前にある多賀城市立図書館は最高の場所です。『仙台BOSAI-TECH Future Awards』を利用したことで、場所の提供までしていただけたのが本当に助かりました。今後は段ボールジオラマの取り組みを他の自治体にも広め、防災教育の新たな形を提案し続けたい」と展望を語った。
  • フロッグス/防災ジオラマ推進ネットワークの上島洋さん

  • 多賀城市総務部危機管理課防災減災係の加藤雄一さん

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